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2016年6月16日
ロシアの思惑、イランの不信感
 6月9日、ロシアの国防相、シリアの国防相がイランを訪れ、イランの国防相との3者会議を開いた。この会議はイランの提案で設けられ、ロシアの国防相はイランとシリアの最近のロシアへの不信感を払拭しなければならなかった。
 イランのロシアへの不信感は募るばかりである。ロシアは大局的な見地からかアメリカと一時停戦の合意をしシリア自由軍への空爆を中断している。そして政治的な解決のプロセスをアメリカとともに進めている。この一時停戦はイランには全く知らされておらず、イランからすれば「いったいどっちの味方なのだ」とロシアの目的に疑心暗鬼になるのも当然だろう。5月9日のアレッポの郊外にあるカーン・ツマンという小さな村でイラン革命隊の特殊部隊が大損害を被った。もしロシアが空爆を実施していたらこのような損害はでなかったであろう、との思いがあるだけに その不信感は頂点に達している。
 ロシアのシリア介入の目的はアサド現政権の維持であることははっきりしている。イランの目的は、レバノンのヒズボラ、イラクやシリアへの軍事支援、武器の補給である。そのためにイランも莫大な予算をつぎ込んでいる。2011年以降イランがシリア支援に費やしたのは90億から150億ドルと言われている。この額は欧米の経済制裁を受けていたイランにとって、決して安くはない。
 高まるイランの不信感を察知してロシアも5月9日の戦死者には哀悼の意を表し、イランに何も知らせなかったことを謝罪した。もちろんそれだけでイランの不信感は消えるものではない。だが、ロシアの協力なしにシリアで軍事的な勝利を収めることはイランにとっては不可能に近い。それゆえにイランもロシアと決裂することもできないでいる。
 ロシアの、アメリカとイランを天秤にかけるようなバランス外交が失速したときシリアの安定はさらに遠のく。

2016年6月14日
大統領選挙に陰を落とす銃乱射事件
  6月12日、アメリカのフロリダ州オーランドで起こった銃乱射事件は49人の犠牲者を出し、史上最悪の事件となった。多数の犠牲者がでる銃乱射事件はたびたび発生しておりそのたびにオバマ大統領は「何度同じことを言ってきたことか。銃規制を強化するべきだと」と悲痛なスピーチをしてきた。
 今回は容疑者のオマル・マティーンがイスラム教徒であること、標的がゲイクラブであったことから、イスラムテロなのか同性愛者をターゲットとした憎悪犯罪なのかという複雑な事件となった。イスラムテロなら国家安全保障問題であり外交政策に影響を与える深刻な事態となる。憎悪犯罪であれば国内政治の問題となり、性的少数者や銃規制というアメリカ社会を分断するような深刻な問題となる。
 マティーンは1986年ニューヨーク生まれの29歳だった。両親はアフガニスタンからの移民であり、父親はアフガニスタンの大統領選挙に立候補するほど政治に関心が強い。タリバンやタリバンを支援するパキスタンを嫌っており、イスラム原理主義というよりはリベラル派である。
 その息子であるマティーンは、宗教に関心が薄くモスクにも「最後に来て最初に帰る」タイプだった。FBIから捜査対象となったこともあったが、脅威とは見なされず監視対象にもならなかった。民間警備会社に勤めるごく普通の若者だったようだ。
 ただ、同性愛を激しく嫌っていたと同僚や両親は証言した。そうであれば今回の乱射の動機は憎悪だとみることもできるが、容疑者が射殺されているので断言はできない。
 今回の事件は大統領選挙にも影響を与えている。共和党候補のトランプは「自分の主張が正しいと立証された」と息巻く。彼は「イスラム教徒の移民は制限するべきだ」と、公言して憚らない。もっともマティーンはアメリカ国籍のイスラム教徒であり移民ではない。クリントンは「テロ」と言いつつもイスラム教との関係への言及は避けている。そして銃規制の強化も主張している。オバマ大統領も「テロであり憎悪だ」としてあくまで国内問題にとどめるつもりのようだ。世界もアメリカがこの事件にどう向き合うのか、注目している。